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個別労働紛争解決制度の「あっせん」制度その他について

個別労働紛争とは

個別労働紛争とは、労働者個人と使用者との間の紛争を言います。
例えば、不当な解雇や有期雇用契約の雇止め、賃金や職位の引き下げ、職場でのパワハラやセクハラ、マタハラ、さらには賃金や残業代、退職金等の不払いなどが考えられます。
かつての労使紛争は労働組合対会社という、組織と組織が相対する関係での紛争が主流でしたが、近年は労働組合の組織率は20%を下回るようになり、労働組合に加入している労働者のほうが少ない状況です。
また、大企業に比べて中小企業では労働組合の組織率はさらに低くなるため、労働組合の保護を受けられる労働者の割合はさらに低くなります。
一方で、解雇やハラスメントなどの紛争は中小企業で多く発生しているとの指摘もあり、このような個々の労働者の救済をいかに図るかが問題となります。



個別労働紛争解決制度とは

個別労働紛争解決制度とは、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」(個別労働紛争解決促進法)の規定に基づいて、主として行政機関である都道府県労働局(厚生労働省の労働部門の都道府県における出先機関)で行う、個別労働紛争の解決の援助としての制度を言います。
個別労働紛争解決促進法では、個別労働関係紛争についてはまず、当事者で紛争の自主的解決を図るよう努めること(法第2条)とされていますが、当事者間で解決困難な場合に、裁判や労働審判などの司法手続きによらない、簡便、迅速な解決を目指すためのいくつかの手続きを用意しています。

・労働者、事業主等に対する情報提供等(法第3条)
・当事者に対する助言及び指導(法第4条)
・紛争調整委員会による「あっせん」(法第5条)

このうち、「助言・指導」は、紛争当事者の一方からの申し出により、相手方に対し、その問題点を指摘するとともに、解決に向けて再考を促すことで、自主的な紛争解決を促進する制度です。
「助言・指導」はいわゆる行政指導とは異なり、紛争解決を促すために行う助言のような性格が強いものであり、「助言・指導」を受けても、拒絶すればそれで手続きとしては終了することになります。
「助言・指導」において法違反等の指摘はしないかというとそうではなく、例えば労働契約法や高年齢者雇用安定法のような民事的効力法規に違反する行為があればそれを指摘することもあり得るものです。
また、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法、パート有期雇用労働法には「助言・指導」のほか、法違反の性格が強い行為に対し、是正をより強く求める「勧告」規定も用意されています。(育児・介護休業法52条の4、男女雇用機会均等法17条、パート有期雇用労働法第24条)
これら3法に関しては、法律の履行確保のために、事業主に対して法律の遵守の状況について報告を求める「報告の徴収」のほか、法違反に対して是正を求める「助言・指導・勧告」、勧告に従わない事業主を公表できる「公表」規定を整備しており(育児・介護休業法56条、男女雇用機会均等法29,30条、パート・有期雇用労働法18条)、報告の徴収を行う事業所については匿名での情報提供も受け付けており、匿名性を重視する場合はこちらの制度を利用することもできますが、制度の性格上、個別労働紛争の解決を図るというものではなく、法律の履行状況を確認し、必要に応じて助言・指導などを行って法違反の是正を促すことで、結果的に紛争も解決することもあり得るというにとどまるものです。
なお、例えば労働基準法や労働安全衛生法のような、いわゆる罰則付き強行法規であって監督機関である労働基準監督署が設置されている法律の違反に関しては、労働基準監督署への法違反の申告により違法状態の是正を求めることを案内されます。
「助言・指導」に関しては、紛争解決の促進を図るという制度の性格上、労働局(または各労働基準監督署等)に配置された総合労働相談員等、個別労働紛争解決制度の運用を行う担当職員に対して名前を告げて制度の利用を求めることになり、相手方にも、申出者の名前を告げて「助言・指導」を行うことになります。
資料によると、令和2年度の個別労働紛争解決制度の施行状況は以下の通りとのことです。

※個別労働紛争の概況(全国)
 総合労働相談  1,290,782件 
     法制度の問い合わせ 875,468件 
 労働基準法等の違反の疑いがあるもの 190,961件 
 民事上の個別労働紛争相談件数 278,778件 
助言・指導申出  9,130件 
あっせん申請  4,255件 

※あっせんの概況(全国)
 紛争当事者双方のあっせん参加件数  2,074件
(48.4%)
 合意成立件数  1,390件
(32.4%)
打ち切り件数 2,654件
(61.9%) 
 処理終了件数 4,289件
(100%) 
  うち2か月以内に処理 3,409件
(79.5%) 

資料出所:「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します(厚生労働省)


個別労働紛争における「あっせん」とは

個別労働紛争における 「あっせん」とは、行政機関や民間機関が行う、裁判によらず、和解による解決を目指す個別労働紛争の解決手続です。
「あっせん」では、弁護士、社労士、学者などの労働法に詳しい第三者が間に入り、両当事者と話し合いを行い、互譲の精神にのっとってお互いが譲り合いながら合意形成を図り、最終的に和解が成立するように話し合いを行って行く手続きです。
裁判と異なり、参加に強制力はないので、「あっせん」を申請しても相手方不参加により「あっせん」が行われないこともあります。
また、「あっせん」手続きが話し合いによる和解が成立する見込みがないとして途中で打ち切りとなることもあります。
裁判所における司法手続き、例えば労働審判では、原則として3回までの期日を開いて調停という話し合いの手続きとして和解に向けて話し合いをし、話し合いによる和解が成立しない場合は裁判の判決に代わる「労働審判」を出して終了し、2週間以内に異議がなければ確定判決と同一の効力を持ちますが、「あっせん」にはそのような機能はなく、原則として一回の期日で終了し、和解成立した場合も、裁判の判決のような効力はなく、民事上の契約としての効力を有するのみです。
それでは「あっせん」を行う意味がないのではないかというとそうでもなく、基本的に1回で終了するので早く終わること、弁護士などの代理人は必ずしも必要としていないので、本人だけで「あっせん」を行う場合、無料、ないし低額で行えること、が司法手続きなどと比較した場合のメリットとなります。
これに対し裁判、労働審判は弁護士の代理を想定して制度設計されているため、相当額の弁護士費用が必要となるほか、判決、ないし労働審判などで終了するまでの期間が数ヶ月から1年以上となることが普通であり、時間も費用も相当に掛かります。
訴訟の出訴や労働審判の申立てにかかる費用は、民事訴訟費用法に規定がありますが、例えば、不当解雇について争う場合、同法第4条第2項により訴額は160万円となり、同法第3条、および別表第一により訴訟の申立ての場合は13,000円、労働審判の申立ての場合は6,500円の費用がかかるほか、裁判書類の送付等にかかる費用の予納が必要になります。
さらに弁護士を付ける場合は、着手金としてある程度のお金を払うことが必要になり、弁護士費用は現在自由化されていますが、固定制であった時代の日弁連報酬基準によると、訴額160万円の場合の着手金は、経済的利益額の8%=128,000円とされていたほか、成功報酬が16%とされていました。
また、裁判等の期日の出廷費用などもかかることになります。
これらの点を考慮すれば、無料、ないし低額で早期に終了できる「あっせん」を使って和解するメリットは大きいといえます。
このメリットは、時間もなく、資力も低いことが多い労働者にとって、より大きいといえます。
企業にとっても、例えば裁判に訴えられた場合、そのこと自体がレピュテーションリスクとなるほか、裁判で争うために弁護士の代理が必要となることが多く、その場合も着手金や成功報酬などの金銭的負担を考えれば、「あっせん」で簡便・迅速に和解するメリットは大きいといえます。
なお、「あっせん」は労働者からの申し立てだけでなく、企業からの申し立ても可能であり、労働者との紛争を早期に解決したい企業がこの制度を利用することもできます。

「あっせん」では、紛争当事者双方から話を聞いたり、文書や主張の証拠となる書類を提出してもらうなどして両者の主張を吟味し、判例等を踏まえて第三者の立場から和解を勧める「あっせん案」が提示されます。
「あっせん案」の受諾は強制ではなく、受諾して和解を成立させることも、「あっせん案」を一部修正して和解を成立させることも可能なほか、受諾せずに「あっせん」を終了することも可能です。
また、「あっせん」案によらず、当事者の話し合いにより合意形成して和解成立することも可能です。
「あっせん」による和解が成立した場合、その内容は民法上の和解契約となります。
「あっせん案」の内容を履行しなかった場合、債務不履行責任(契約の内容を果たさなかった責任、民法415条)を追求されることになります。
また、「あっせん」で成立した和解契約に裁判の判決と同等の効力を持たせるためには、裁判所に申立て、期日に両者が出頭して判決書と同等の効力を有する和解調書を作成する即決和解手続(民事訴訟法275条)を行うか、公証人役場において、債務不履行があれば直ちに強制執行に服する旨の文言(条項)がついた公正証書(執行証書、強制執行認諾文言付公正証書(民事執行法22条5号))を作成する方法があります。
参考:
訴え提起前の和解手続の流れ(裁判所HP)
公正証書(新橋公証役場)
民事執行手続(裁判所HP)
執行文付与申立て(日本公証人連合会)

「あっせん」を行う機関は、徳島県では、厚生労働省徳島労働局、徳島県労働委員会、徳島県社労士会があります。
このうち、徳島労働局で行う「あっせん」は、個別労働紛争解決促進法に基づいて徳島労働局に設置されている紛争調整委員会により行われ、徳島県労働委員会も同法に基づいて「あっせん」を行うことができます(同法第20条)。
徳島労働局における「あっせん」の窓口は、徳島労働局雇用環境・均等室のほか、県内各労働基準監督署に設置された総合労働相談コーナーですが、「あっせん」自体は徳島労働局で行われます。
徳島県労働委員会は、労働関係調整法に基づいて使用者と労働組合との間の労働争議の解決を図る「あっせん」手続き(労働関係調整法第10条ほか)と、個別労働紛争解決促進法に基づく個別労働紛争解決のための手続である「あっせん」手続きの2つの「あっせん」制度を持つということになります。
徳島県社会保険労務士会は、裁判外紛争解決手続利用促進法に基づく法務大臣の認証(法第5条)と、社会保険労務士法に基づく厚生労働大臣の指定(法第2条第1項第1の6号)を受けた民間紛争解決手続きを行う事業者です。

徳島労働局で行う「あっせん」は、3名のあっせん員があっせんの事件ごとに任命され、あっせんを行います。
法律上、手続きの一部を特定のあっせん員に行わせることができますので(個別労働紛争解決促進法施行規則第7条第1項)、事件の内容がそれほど複雑でない場合などは実際に「あっせん」を行うのは1名のあっせん員という場合があります。
この場合でも「あっせん」を行うあっせん員は他のあっせん員と意見交換や協議を行うことがあり、完全に一人で「あっせん」を行うわけではないようです。
また、事実関係の調査を労働局職員に行わせることができる規定がありますので(個別労働紛争解決促進法施行規則第7条第2項)、「あっせん」申請後、申請内容の補充を目的とした労働局職員による事情聴取が行われる場合があるほか、「あっせん」にも臨席してあっせん員の補助を行うことになります。
労働局での「あっせん」を行うメリットとして、労働法を所管する機関で行う「あっせん」であるため、会社側に一定のプレッシャーがかかり、和解に向かうことが期待できます。
一方、労働局から言われたということに反発するような場合は「あっせん」を応諾しないといった対応をされることも考えられます。

徳島県労働委員会における「あっせん」は、労働委員会の公益委員、使用者側委員、労働者側委員各1名が「あっせん」の事件ごとに指名されて「あっせん」を行うこととされています。
3者構成の利点として、例えば使用者側委員からの説得に会社が耳を傾けてくれるなどの効果が期待できるため、労働委員会のあっせんを使うメリットがあるといえます。
一方で、労働局で行う手続ではないため、例えば、会社側が軽く見てしまう場合も考えられます。

徳島県社会保険労務士会における「あっせん」は、特定社会保険労務士2名、弁護士1名が「あっせん」の事件ごとに指名されて「あっせん」を行うこととされています。
特定社会保険労務士はあっせん員候補者名簿から、弁護士は弁護士会から推薦された弁護士の名簿から指名されます。
弁護士は、法律の適性を担保するために選任されるということであり、「あっせん」での協議においては積極的に参加しない場合もあるかと思われますが、和解条項の内容が法的に複雑な場合など、その内容によっては弁護士が積極的に関与する場合もあるものと思われます。
また、他の社会保険労務士会における「あっせん」では、弁護士が必ず選任されるわけではないところもあるようです。
社会保険労務士会の「あっせん」の特徴として、必ず複数の社会保険労務士のあっせん員が「あっせん」に参加し、中立的な立場から和解を促すという点があります。
一方で、労働委員会の「あっせん」と同様、労働局で行う手続きでないため、軽く見られる場合があることがあげられるほか、特定社会保険労務士を代理人とする場合で「あっせん」の目的物の価額が120万円を超えるときは、弁護士との共同受任が必要となること(社会保険労務士法第2条第1項第1の6号)があります。



「あっせん」等の特徴

個別労働紛争についての紛争解決の手段としては、民事訴訟のほか、労働審判、そして非訟事件手続として「あっせん」等があります。
このうち、労働審判は、労働紛争を専門的に解決するために平成18年から始まった制度で、3回以内の期日で解決を図るもので、裁判官と専門知識を持つ労働審判員で構成される労働審判委員会が労使紛争を審理し、原則として調停を試み、調停で解決が図れない場合に「労働審判」を行うものですが、当事者に異議のある場合は民事訴訟に移行することになります(労働審判法第21条、第22条)。
審理は非公開が原則ですが、傍聴が認められる場合があります(労働審判法第16条)。

労働審判や通常訴訟に比べ、「あっせん」等は裁判よりも簡便な手続で紛争を解決することができます。
「あっせん」等では中立な第三者が間に入って和解に向けて話し合うという形をとるので、当事者間のみで話し合う場合に比べてより公平な解決を図ることができます。
また、裁判とは異なり、話し合いを行う手続きであるので、ある行為が違法なものか、などの判断は行わずに両当事者の主張と問題点を整理し、一般的には解決金の支払いを柱とする和解契約の締結という形で決着するので、行為や不作為の違法性を指摘して損害賠償額を決めていく裁判などに比べ、平和的な解決を図ることができるといえます。
一方で、必ず判決や労働審判という形で終結する裁判などに比べ、「あっせん」等は任意のものであるため、和解に至らない場合、不調として終了する場合もあります。
「あっせん」等は申立てから1~2か月以内に開催されることが多く、原則として1日で終了するので、終結までに数ヶ月ないし1年以上かかることが多い裁判や労働審判などと異なり、迅速に終了することが特徴です。
「あっせん」等は本人の申し立てと参加を前提として制度が設計されていますが、裁判などと同様に、代理人を立てることも可能であり、弁護士のほか、特定社会保険労務士や、事案によっては認定司法書士が代理することも可能です。
「あっせん」等の申請の費用が無料または低額であるのも特徴です。
その反面、民事訴訟や労働審判が判決などの形で執行力が付与されることから、ほぼ参加が強制される手続であるのに対し、「あっせん」等は任意の手続なので、「あっせん」等を申し立てられても参加を拒否することができます。
また、民事訴訟の判決、労働審判の調停または審判には強制執行などを申し立てることのできる債務名義としての効力がある一方、「あっせん」等で和解が成立しても、その結果締結されるのは、和解契約という一種の契約で、債務名義を得るためには一定の対応が必要になります。
審理が公開の法廷で行われることが原則の通常訴訟に対し、「あっせん」等は非公開の手続であることも特徴です。



「調停」とは

徳島県では、徳島労働局雇用環境・均等室が窓口となって行われます。
男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パート・有期雇用労働法、労働施策総合推進法における労使間の問題を対象とします。
対象とする紛争は以下の通りです。

〇男女雇用機会均等法
・募集・採用についての性別を理由とする差別の禁止(法第5条)
・配置・昇進・降格・教育訓練等についての性別を理由とする差別の禁止(法第6条)
・間接差別の禁止(法第7条)
・婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(法第9条)
・職場におけるセクハラ防止措置(法第11条1項)
・セクハラ相談等を理由とする解雇等不利益取り扱いの禁止(法第11条2項)
・職場におけるマタハラ防止措置(法第11条の31項)
・妊娠中及び出産後の健康管理に関する保健指導等についての措置(法第12 条)
・母性健康管理における保健指導順守のための勤務時間軽減等の措置(法第13条)
〇育児・介護休業法
・育児休業の申出等(法第5条~8条)
・育児休業期間(法第9条)
・パパママ育休プラス(法第9条の2)
・公務員である配偶者がする育児休業に関する規定の適用(法第9条の3)
・不利益取扱いの禁止(法第10条)
・介護休業の申出等(法第11条~14条)
・介護休業期間(法第15条)
・不利益取り扱いの禁止(準用、法16条)
・子の看護休暇の申出等(法第16条の2、第16条の3)
・不利益取り扱いの禁止(法第16条の4)
・介護休暇の申出等(法第16条の5,第16条の6)
・不利益取り扱いの禁止(準用、法16条の7)
・所定外労働の制限(法第16条の8~第16条の10)
・時間外労働の制限(法第17条~第18条の2)
・深夜業の制限(法第19条~第20条の2)
・妊娠・出産等についての申出があった場合における措置等(法第21条)
・所定労働時間の短縮措置等(法第23条)
・不利益取り扱いの禁止(準用、法23条の2)
・労働者の配置に関する配慮(法第26条)
〇パートタイム・有期雇用労働者法
・労働条件に関する文書の交付等(法第6条1項)
・不合理な待遇の禁止(法第8条)
・通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止(法第9条)
・教育訓練の実施(法第11条1項)
・福利厚生施設の利用の機会付与(法第12条)
・通常の労働者への転換(法第13条)
・事業主が講じる措置の内容等の説明(法第14条)
〇労働施策総合推進法
・パワハラ防止措置(法第30条の2第1項)
・不利益取り扱いの禁止(法第30条の第2項)

「調停」は、「あっせん」と同様、労働局に設置されている紛争調整委員会が行い、弁護士、社労士、学者などの労働法に詳しい第三者が調停委員として間に入り、紛争の和解による解決を目指します。
参加が強制されないこと、両者から文書の提出を受けたり主張を聞いたりすること、「あっせん案」に代わる「調停案」が提示されること、「調停案」の受諾が強制されないことなどは、「あっせん」と同様です。
また、法律上、手続きの一部を特定の調停員に行わせることができますので(男女雇用機会均等法施行規則10条1項)、事件の内容がそれほど複雑でない場合などは実際に「調停」を行うのは1名の調停員という場合がありうることも労働局で行われる「あっせん」と同様です。
「調停」の大きな特徴として、関係当事者等の出頭要請(男女雇用機会均等法20条、育児・介護休業法、パートタイム・有期雇用労働者法、労働施策総合推進法に調停に関する規定の準用規定あり)があり、ハラスメントの加害者等の当事者を調停の場に出頭することを求め、調停委員がその意見を聞くことができる制度があります。
男女雇用機会均等法における紛争がセクハラなど、第三者が確認できないことが多い紛争であることが多いことに鑑み、調停委員が関係当事者から直接意見を聞くことで、より実効的な解決を図っていく趣旨であると思われます。
「調停」自体が任意の制度であるため、関係当事者の出頭も強制でなく、あくまでも「要請」であるので、ハラスメントの加害者等が必ずしも「調停」の場に出頭するわけではありませんが、例えば加害者が出頭しなければ事業所の加害者に対する心証が悪くなることが考えられ、出頭すれば調停委員という第三者により行為の有無や違法性がある程度明らかにされることにより、会社側が行為を把握することになることが期待でき、被害者側の処罰感情もある程度充足されて和解に向かうことが期待されます。
調停が成立した場合、「あっせん」と同様、その内容は和解契約となります。
労働者側からも、使用者(経営者)側からも「調停」の申し立てを行うことができることは、「あっせん」と同様です。



「あっせん」等の対象となる紛争

「あっせん」の対象となる紛争は、企業と労働者の間の紛争で民事的に解決するものが対象になります。
厚生労働省のHPによると、以下のような紛争が例示されています。
(具体的には、各「あっせん」等機関の判断によります)
・解雇、雇止め、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争
・いじめ・嫌がらせなどの職場環境に関する紛争
・退職に伴う研修費用の返還、営業車など会社所有物の破損についての損害賠償をめぐる紛争
・会社分割による労働契約の承継、同業他社への就業禁止など労働契約に関する紛争
「調停」の対象となる紛争は、前項で示した通りです。
資料によると令和2年度の労働局のあっせんにおける申請内容の内訳は以下の通りです。

※労働局あっせん申請件数(全国)
解雇  983件
21.8% 
雇止め  427件
9.5%
退職勧奨  299件
6.6% 
採用内定取り消し  88件
2.0% 
自己都合退職  141件
3.1%
出向・配置転換 134件
3.0% 
労働条件の引き下げ  313件
6.9% 
その他の労働条件 523件
11.6% 
いじめ・嫌がらせ 1,261件
28.0% 
雇用管理等 68件
1.5% 
その他 273件
6.1% 
内訳延べ合計件数 4,510件
100% 
資料出所:「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します(厚生労働省)

また、 厚生労働省の資料によると、令和2年度の調停等の件数は以下の通りです。

調停申立て受理件数
男女雇用機会均等法    68件
   配置・昇進・降格・教育訓練等(法第6条関係) 2件 
2.9%
  婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱い(法第9条関係)  10件
14.7% 
  セクシュアルハラスメント措置義務(法第11条関係) 48件
70.6%
  妊娠・出産等に関するハラスメント措置義務(法第11条の3関係) 7件
10.3% 
  母性健康管理(法第12条、第13条関係) 1件
1.5% 
労働施策総合推進法 126件 
  パワーハラスメント防止措置(法30条の2第1項関係) 115件
91.3% 
  パワーハラスメントの相談を理由とした不利益取り扱い
(法第30条の2第2項関係) 
11件
8.7% 
パートタイム・有期雇用労働者法   16件 
  不合理な待遇の禁止(法第8条関係) 9件
56.3% 
  差別的取り扱いの禁止(法第9条関係) 4件
25.0% 
  待遇の相違等に関する説明(法第14条2項関係) 3件
18.8% 
育児・介護休業法  15件 
  育児休業(期間雇用者除く)(法第5条関係)  4件
26.7% 
  育児休業(期間雇用者)(法第5条関係)  1件
16.7% 
  育児休業以外にかかる不利益取り扱い
(法第16条の4,16条の10,20条の2,23条の2関係) 
1件
6.7% 
  所定労働時間の短縮措置等(法第23条1項、2項関係)  2件
13.3% 
  育児休業等に関するハラスメントの防止措置(法第25条関係)  3件
20.0% 

資料出所:令和2年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法、パートタイム労働法、パートタイム・有期雇用労働法及び育児・介護休業法に関する相談、是正指導、紛争解決の援助の状況について(厚生労働省)


徳島県における「あっせん」等機関

先に述べたように、徳島県内ではいくつかの機関で「あっせん」等を行っています。
以下、リンクを掲載しておきます。

〇徳島労働局 
 「あっせん」に関するページ:総合労働相談(徳島労働局HP)
               個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)(厚生労働省HP)
 「調停」に関するページ:職場でのトラブル解決の援助を求める方へ(厚生労働省HP)
〇徳島県労働委員会 
 「あっせん」に関するページ:労働委員会は,いつでも労働相談を受け付けています!(徳島県HP)
               個別労働関係紛争のあっせん(中央労働委員会)
〇徳島県社会保険労務士会(社労士会労働紛争解決センター徳島)
 「あっせん」に関するページ:各種相談受付(徳島県社会保険労務士会HP)
               労使紛争を解決したい(全国社会保険労務士会連合会HP)



「あっせん」等の流れ

大まかに、以下のような流れになります。



「あっせん」等は代理してもらうべきか、単独で臨むべきか。

「あっせん」等では労働法の専門家があっせん員等として両当事者の間に入るため、法的知識がなくても参加することができますが、より満足を得るためには、当事者側に立つ専門家の助言を受けたほうがよい場合もあります。
一方、必ずしも「あっせん」等で終局的な解決を図る必要がなく、場合によっては解決してもいいといった場合などでは、費用のかかる代理人を立てるよりも、単独で臨んだほうがよいと思われます。
「あっせん」等の場をどのように位置づけるかにより異なると言えます。


「あっせん」等について

「あっせん」の解決金については、調査資料によると以下のようになっています。

1-5万円未満 38件
5-10万円未満 42件
10-20万円未満 89件
20-30万円未満 47件
30-40万円未満 32件
40-50万円未満 17件
50-100万円未満 29件
100-200万円未満 17件
200-300万円未満 2件
(資料出所:労働政策研究報告書 No.174 労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

解決金は100万円以下が多く、おおざっぱに言うと、賃金の数か月分までの解決金を求める場合に「あっせん」を申請する利益があると言えます。
また、この資料によると、中央値が「あっせん」は600,000円、労働審判は2,600,000円、和解は5,286,333円とされておりますので、求める解決金額によって「あっせん」、労働審判、通常訴訟を使い分けることが考えられます。

また、「あっせん」申請を受けた側から「あっせん」に応じる利益を考えると、「あっせん」の非公開性、迅速性、低廉性が「あっせん」参加の利益となり、そこそこの金額で妥結できるのであれば、紛争が他に漏れることなく、白黒つけることなく終了できる「あっせん」に参加してもよいと考える場合があるものと思われます。
申請を受けた側に「あっせん」に参加しようと思わせるためには、事案の内容と双方が有する事実や証拠に照らして妥当な解決金額を提示することが必要と思われます。
申請者の側に強力な証拠や主張できる材料があり、相手方も早期に妥結したほうが得策と考えるような場合であれば、相当額の解決金を求めて「あっせん」申請することもできるかと思います。
逆に、証拠がない、事案の性質上証明が難しい、けれど事実は双方が確認している、といった事案については、「あっせん」によってそこそこの金額で妥結したほうがいいと両当事者が思える場合があるものと考えられ、そのようなケースにも「あっせん」が使えるのではないかと思います。

「あっせん」は結局のところ、お互いに折り合える可能性がある紛争の解決に適合するといえ、互いに白黒つけないと収まらない、あるいは解決の合意点が見い出し難い場合は、通常訴訟や労働審判に持ち込んだ方がよいものと思われます。

裁判や労働審判に移行する前にとりあえず「あっせん」をやってみるという使い方もできないわけではありませんが、解決金の相場などを見る限り、訴訟で決まるような紛争を「あっせん」で解決できる可能性は高くないと思われ、裁判等の前に手持ちの証拠等を見せてしまうことのデメリットも無視できないように思われます。

他の紛争解決手続きに対し、メリットとデメリットがある「あっせん」手続ですが、私は、「あっせん」という制度は労働紛争解決の手段として有効と考えます。
「あっせん」の、「話し合い」というスタンスは、原告・被告の二者が対峙し、判決によって決着を付けるという民事訴訟やそれに類似した「審判」を行う労働審判とは異なるもので、日本人の気質には、対決を意識せざるを得ない訴訟や労働審判よりも、「あっせん」の方がよりなじむように思われます。

「あっせん」により、訴訟よりも有利な解決を図ることができるのは、労働者側よりもむしろ使用者側ではないかと考えます。
労働紛争が存在し、労働者側に訴訟という手段を選択された場合に、訴訟にかかる金銭的損失は少なくありません。
本人訴訟という手段もありますが、勝つことを考えれば弁護士に依頼せざるを得ず、勝っても負けても相応の金銭の支払いが訴訟になった段階で確定します。
同時に、紛争状態にあることを公的に承認することになり、これが企業の社会的信用・名誉を毀損する場合も考えられると思います。
それらのことを考えれば、第三者が入ることによってある程度公正に紛争解決ができ、事実上、弁護士に依頼せざるを得ない訴訟よりは、安く解決できる可能性がある「あっせん」のメリットは大きいのではないかと考えます。

ただし、使用者側から「あっせん」申請する場合、労使が紛争状態にあることを認めることになるため、一定の金銭の支払いを事実上承認することになります。
従って、労働者個人との紛争状態が争訟なしには解決が難しいと考えられる場合、弁護士費用や信用・名誉の毀損リスクまで考慮した場合の先制的に行う防衛手段として「あっせん」申請が選択に入るものと思われます。
逆に、労働者側から「あっせん」を申請された場合、それらのリスクは既に顕在化し、労働者が訴訟を諦めない限り、一定の金銭の支払の蓋然性が存在することになるので、請求費用が小額である場合は格別、一定額以上の場合は応諾によって新たに発生するリスクはないと考えられ、訴訟に移行する前の和解に類する手段としてあっせんは積極的に選択できると考えます。
請求額が100万円を超えるような場合は、「あっせん」不調であった場合、労働審判や訴訟に移行する可能性が高くなるので、「あっせん」手続の中で解決を図ったほうがよい場合が多いのではないかと思われます。

先述したように、「あっせん」手続は非公開です。
「あっせん」により和解に至った場合、和解内容について守秘義務条項を入れるのが一般的です。
これにより、企業の信用・名誉を保護することができます。
この点だけを取っても、「あっせん」を積極的に選択するメリットはあると思われます。

「あっせん」の応諾率が、労働局の「あっせん」で4割程度と低率なのは、使用者の多くが「あっせん」という手続とそのメリットをあまり認識していないのではないかと考えます。
労働委員会の「あっせん」では応諾率が少し上がるのは、労働委員会の「あっせん」では公労使の三者がそれぞれあっせん員を勤めるので、使用者側の労働委員もあっせん員に選任されていることと関係があるのではないかと考えられます。
「あっせん」のメリットが使用者側に広まれば、「あっせん」はもっと積極的に使われるようになるのではないかという気がします。



最終更新:R4年4月27日

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